苦境を乗り越えたリーダーのことば「リーダーの決断」高雄宏政著 世界文化社から苦境を乗り越えた男たちのことばを引用して紹介します。【業界のガリバーに打ち勝った男―アサヒビール会長 瀬戸 雄三】 ○「私は社長になったとき、『3つのスタンス』を社員に言ったんです。1つは基本に忠実であれ、2つ目は積極的なものの考え方を持て、そして3番目が心のこもった行動をを行えというもので、言葉としては当たり前過ぎますが、『基本をちゃんとやれ』ということなんです」 ○「新鮮なビールを飲んでもらうためにはどうしたらいいか、これが商売の基本的なスタンスです。倉庫に積まれた”ホコリ高きビール”を売ってたんじゃね」 ○「社員はもう極限だと言っていますが、確かに昔と比べれば大変なことです。でも過去に捕らわれちゃダメだと。5日にでも、4日にでも短縮できるようにやってみろと、こういっているんです」 ○「企業経営というのは感動の共有が一番大事だと。高い目標を立てて、組織で最大の努力をして、目標を達成する。そのときにはじめて感動が共有でき、自信となり、パワーとなって、次のエネルギーが生まれるんですね」 ○「リーダーというのは、情報の坩堝でなければいけないということです。変化の兆しをいち早くつかむ。つかんだら、今度はスピードのある決断をする。決断したら次には行動する。そういう臨機応変な対応が必要です」 ○「そしてもう一つは、やはり部下のために良い舞台を作ってあげることじゃないでしょうかね。良い仕事ができ、お客さまが拍手してくれて、みんなで感動できる、そういう舞台をつくってあげることが、リーダーには大切なことじゃないかと思っています。」 【殉職した亡父の遺志を継いだ男―三菱商事会長 槇原 稔】 ○「(リーダーの条件は)いろいろあって簡単には言えませんが、一つはやはり、人が持っているいいアイデアを引き出し、それを実行に移す力を持っているということでしょうね」 ○「特に総合商社の場合には、そういうリーダーシップが求められます。それに、これだけグローバル化し、変化のスピードが速い時代ですから、それに対応できる国際性、迅速な決断力を兼ね備えていることも必要でしょう」 ○「そういうものがベースにあって、英語で言うとインテグリティーというやつかなと思いますね。日本語では『誠実』と訳されますが、もう少し強い意味での清廉さといったものが必要ではないかと思っています」 【23年間も”島流し”に遭った男―キャノン社長 御手洗 富士夫】 ○「日本の終身雇用というのは、止むに止まれない日本の事情からきた文化です。日本人の社会慣習やコンセプトを変えて、欧米のような経営を導入しようといったって、それは無理ですよ」 ○「だから私は年俸制だとか、役職定年制なんて導入しません。実力主義を着実に実行することで、十分に活性化は保てる。第一、55歳そこそこで役職を取り上げられ、気力を失い、心の張りを失い、定年まで無気力で過ごす社員をどうするいんですか」 ○「終身雇用で結構じゃないかと。アメリカだったら笑われちゃいますが、日本には日本の伝統的な人事政策があって当然だと思う。それが日本の美徳じゃないかと。そういうローカルな部分があって、はじめてインターナショナルな経営も合理的にできるんだと思いますよ」 ○「私は長くアメリカにいたおかげで、もちろん英語も覚えたし、商慣習や物事の考え方も知り尽くしました。人に対して、どこの会社のだれさんという肩書きで見るのではなく、インディビジュアル(個人)で見る癖もつきました」 ○「アメリカという国は、多民族、多言語、多宗教なんですね。その中でビジネスを発展させるために、非常にフェアなルールをつくってきたんです。それはちょうどゲームみたいなものです。ゲームというのはルールがなければ成り立たない」 ○「逆に言えばルールさえ守れば、人種や言葉に関係なく戦うことができる。それが自由競争であり、国際標準なんですね」 ○「ところが日本は、同一民族、同一言語の国で、聖徳太子が『和をもって貴しとなす』と言って以来、ずっと家族主義でやってきた。政府も行政指導や保護政策で過当競争をさせないようにしてきた」 ○「その結果、世界でも珍しい低失業率を維持し、理想的なユートピアを実現させてきたわけです。ビジネスというのはインターナショナルだと思いますが、その一方でローカルな部分は尊重しなければならない。」 ○「国際化といいますと、往々にして世界中を標準化して経営しようと思いがちですが、これは問題です。アメリカにはアメリカ流のやり方があるし、日本には日本的なやり方がある。」 ○「私はアメリカの熾烈な競争原理の中にいましたが、それをこの会社に持ち込むつもりはない。アメリカ流のダイナミックな経営がしたかったら、アメリカに行ってやればいい。グローバル経営とはそういうものだと思いますね」 【父親をこよなく愛してきた男―オリックス会長 宮内 義彦】 ○「社長というのは失敗談を外に言わなくてもいいから黙っているけど、自分じゃよくわかっている。『ありゃまずかったな』と思うことがたくさんあります」 ○「ディシジョンを一つでも間違ちゃいかんなんて思ったらダメですよ。7割か8割の勝率があったら立派なもので、私なんか6割あるかどうかですから(笑)」 ○「まあリーダー論として立派なことを言う人がいるけど、そんなもの備わっている人はいない。『お前はどうだ』と言われたら、全然だめですよ(笑)」 ○「でも、社員を幹部として育てていこうと思ったら、一度や二度ぐらい失敗した人間のほうがいいと思いますね。失敗したことはその人の一生を通して強烈な印象として残っているし、強い経営者になれる糧となりますからね」 ○「一度も失敗しないで、順風満帆にやってきた人がトップになったら、これは怖いですよ。会社ごと失敗してしまうかもしれない」 ○「やっぱり自分自身を客観的に自己評価するというか、自分の立場や会社の置かれている立場というものを客観的に評価していきませんと、おかしなことになりますよね」 ○「リーダーというのは、別に人物で引っ張っていく必要はないんです。経営者という与えられた責務をどれだけきっちりとこなすことができるか、そういうファンクションとしての能力だと思うんです。つまり人をモチベートする力。人にやる気を起こさせる力ですね」 ○「人をやる気にさせるというのは時代によって違うんです。昔なら『きみ、いつもよくやってくれてるな』と一杯のますか、逆に恐怖政治でどやしつける。それでよかったわけですが、しかし今のような豊かな時代では、それじゃ通用しない。やはり楽しくできる仕事を与えてあげないと」 ○「ジョブ・アロケーションと言うんですが、仕事をうまく配分してあげる。これが非常に重要になってきますね。『黙って俺に付いてこい』式のリーダーのために命をかけて働く。そんな人いませんよ。いても役にたつかどうか」 ○「知識労働者を働かせようと思ったら、カリスマでは付いてこない。やっぱり理詰めと評価です。『えいえいおー』と気勢をあげて社歌でも歌って、最後は一杯飲んで『ようやった』と。そんなことで会社はよくならない。やはり知恵の出し合いなんです」 【原因不明の死の病と闘った男―東芝会長 西室 泰三】 ○「経営者は大きなディシジョン(決断)を下すだけじゃなく、小さいことでも気がついたら一つ一つ直していく。その積み重ねが会社全体を変えていくことになると思うんです。」 ○「その決断のためには、必要な情報が全部そろったという確信がなければならない。判断の材料が全部そろっているという確信があったらディシジョンができなきゃおかしい。」 ○「そのためには悪い話でも持ってこられる雰囲気をつくることですね。つまりグッド・ディシジョン・メーカーであるためには、グッド・リスナーでなきゃいけないということです」 【「団交好き」と言われた男―全日本空輸会長 野村 吉三郎】 ○「改革というのは、やはり危機意識に基づくトップのリーダーシップでしょうね。これがないと、ただ上から『やれ、やれ』と言ったってできるものじゃない。よくリーダーには決断が必要だと言われますが、決断というのはリーダーになるような人なら、どんな人間でもできます」 ○「むしろ大切なことは、人に好かれるということじゃないかと思うんですよ。相手の話を公平によく聞き、決して派閥などをつくらない。だから人も寄ってくるし、気楽に相談もできる」 ○「ちょっと厳しいことを言われても、『まあ、あいつが言うんだったらしょうがない』という感情を抱かせる人間。それがリーダーの条件じゃないかと私は思いますね。逆に、人も寄ってこないし、頼りにもされなくなると、決断は鈍るし、仕事もうまくいかなくなる。そんなものじゃないですか」 【「権腐十年」の教えを守ってきた男―資生堂名誉会長 福原 義春】 ○「リーダーは人を動かす力のある人に与えられた称号なんですね。その意味でも、下の者が信頼を抱き、進んで行動したくなるような魅力を持っていることが大切です」 ○「喋る言葉の一言一言に重みがあって、その人が入ってくると会場の雰囲気がガラット変わってしまう。ワンマンということではなく、その人が出席しないとうまいことまとまらない。そんな人間としての魅力を持った人が、リーダーの一つの条件でしょう」 ○「それともう一つは先見力。これもリーダーには欠かせない要件です。情報力というのはいつの時代でも大切な要素ですが、その情報をもとに先をどう読むか、ということです」 ○「社会の仕組みやニーズ、価値観が急速に変化する現代では、リーダーの先見力が大きく明暗を分けます。この先見力を持つためには、机の上で考えたり、本を読むだけではだめで、やはり若いころから現場でいろんな経験を積み、その体験を身につけておくことが大事でしょうね」 ○「社外との幅広い交流や体験も、先見力を養う上で意味があります。それからもう一つは、コミュニケーション能力です。リーダーの目標は、一緒に進もうとする人たちが同じ志を持つ状態をつくり出すことです」 ○「このためには昔ながらの「黙って俺に付いて来い」といったタイプではだめで、自分の言いたいことを自分なりの話術で、人にわかるように話すことが非常に重要です。ですから部下に伝えたいことは、エピソードやアナロジー(類推)を借りてでも、徹底して何度でも話すことですね」 ○「リーダーは部下に「教える」責任はないが、「育てる」責任はあるということです。もちろん教えることは重要ですが、細かく指示して手取り足取り教えても、人は決して伸びない」 ○「それよりも自分で体験し、失敗を重ねることによってはじめて身についていく。そのような部下を育てる環境を整備してあげることのほうが大切です」 【「夢」を求めて50歳で転職した男―バンダイ社長 高須 武男】 ○「サラリーマンには必ず不遇の時代というか、自分で納得できないことがある。そういう状況をどうやって乗り越え、バネとして次に活かしていくか。これが人間としても大きくなれるかどうかのキーポイントなんでしょうね」 ○「企業というものを野球にたとえれば、ホームランバッターも必要だし、バントのうまい選手もいるわけですよ」 ○「そういう個々の人間の強さをうまく組み立てて、ゲームを勝利に導いていくことがリーダーの役割だと思う。ですから社員一人ひとりの考え方、熱意、能力を知るためにも、コミュニケーションが大切なんです」 【「鬼十則」を忠実に実践してきた男―電通社長 成田 豊】 ○「これは欧米人がよく言うんだけれど、『これ以上悪くならないことを神に感謝する』という言葉があるんだね。まあ、僕らは何度も挫折感を味わってきた世代だが、それでも生きておるからな」 ○「クリエイティブ・アイデアを出して、そのたびにチャレンジしてきたよ。これ以上悪くならない。そういう気持ちでね」 【出向生活20年を乗り越えた男―帝人社長 安居 祥策】 ○「リーダーというものには、自分で考えて自分で実行するということと、いろんな人に仕事をしてもらって実現させるという2つの要素があると思うんです。いずれにしても今みたいに環境がコロコロと変わる時代には、いっぺん元へ戻って、本当にこれでいいのかという原理原則を考えるべきだと思いますね」 ○「この間いろいろと改革してきたのも、コーポレート・ガバナンスという観点から、決定の透明性、経理の透明性という原理原則をやってきたまでですが、そういう公平性や決定のスピードは必要でしょうね」 ○「それからもう一つは言葉。英語です。うまく喋れる必要はないが、少なくとも通訳なしで仕事の話ができるようにならないと、ちょっと厳しいんじゃないでしょうか」 【野党精神を持ち続けてきた男―ソニー会長兼CEO 出井 伸之】 ○「リ・ジェネレーションというのは、あまり日本語で適当な訳がないんだが、前を否定せずに新しく行くということです。大賀さん的に言えば『起承転結』かな。つまり起承転結が一遍終わって、また、『起』が来る、そういう意味です」 ○「創業の精神に戻って、新しい観点からビジネスを始めようということです。会社が大きくなって一番いけないのは、長いものには巻かれろとか、大企業病とか、前例がないとか、マニュアル通りにやれとか、そういうことでしょう」 ○「今は変化の時代だから、それじゃだめなんだよね。ソニーも変化しなきゃいけない時代に入っている」 ○「『デジタル・ドリーム・キッズ』と言ったのは、デジタル技術に夢を持とうということで、これも変化の必要性を強調したものです。ハードとソフトを含めて力のある会社にしようと。いろんなことを長く喋っても記憶に残らないが、ちょっと抵抗のある言葉を使えば、記憶に残るでしょう」 【片道切符でマニラに飛ばされた男―トヨタ自動車会長 奥田 硯】 ○「私はよく海外に行くと駐在している社員たちに言うんですよ。君たちは非常に幸せだって。島流しにあったというけど、日本じゃお偉いさんが来ても車の手配で終わるが、海外では直接仕事や経営の話ができる。自分を売り込むチャンスだ。ただその機会をものにするかどうかは、日ごろの研鑽と本人の心がけ次第だけど」 |